1.親権者を決める必要があること
親権者になりたいとの相談は、離婚を求める男性女性ともに、よくあるご相談です。
親権とは、成年に達していない子の身上の世話と教育を行い、また、子の財産の管理を行うために、その父母に認められる権利や義務のことをいいます。
諸外国と異なり、現行の日本の法制度では、離婚後の共同親権が認められていません。そのため、離婚をする際には、必ず夫婦のいずれか一方を親権者として定めなければならず、親権者を定めずに離婚をすることはできません。
親権については、夫婦間で最後まで争われるケースも多く、終局判決がでても、控訴して争われるケースも珍しくないほど、離婚を考えるうえで、重要な要素の一つです。
後述するように、親権者の決定にあたって、現在の実務では、現状の監護状態を優先する傾向にあります。そのため、現状の監護状態が確定する前の初動対応が重要になります。
2.親権者を指定する基準
一般的には、当該子の利益を最優先に考え、子の目線に立ち、子を中心に検討の上、親権者が指定されることになります(子の福祉を中心に考えると表現されることが多いです)。
問題は、子の福祉を、具体的にどのような要素をもとに判断するかという点です。
調停や裁判における親権者を定める要素としては、以下の要素をあげることができます。
①現状の監護状態の尊重(監護の継続性の判断)
但し、面会交流中の違法な連れ去りにより現状の監護状態ができあがった場合などには、当該事情も考慮し、現状の監護状態の適切性が判断されます。
②子の意思の尊重(特に15歳以上の子については、家庭裁判所の調査官が、子の意向を調査し、報告書を作成します)
但し、子が幼い場合や、子を監護している親が監護していない親の悪口を吹き込む等、子の意思が真意でないこともあります。調停や裁判では、子の意思が真意に基づくことを主張するため(もしくは争うため)、慎重な調査を依頼する必要があります。
③兄弟姉妹の不分離
血のつながった兄弟姉妹は、分離せず、同一の監護者の下で暮らすことがよいと考えられています。
但し、もともと別々の親の元で暮らしていた兄弟姉妹については、同一の監護者を親権者とすることが、必ずしも子の福祉にそぐわないこともあります。
④監護能力の有無、監護意思の有無
子と同居している際、どちらの親が主体的に監護をしていたのか、将来において、子を育てていく意思が有るのかという観点から、判断されます。
調停や裁判では、子の生活を中心に、一日あたりのスケジュール、一週間あたりのスケジュールを記載する等、子の監護の具体的な状況を主張することになります。
⑤乳幼児における母性優先(乳幼児については母性的役割をもつ者による監護を優先させる)
現在、裁判所は母性優先の原則という考え方をとっていないという意見も散見されますが、少なくとも乳幼児において、母親と子の生物学的なつながりや、特に母乳で乳幼児を育てるような場合、母親にしかできない役割があることも事実です。
また、現実には、乳幼児と関わる時間は、父よりも母の方が多いことが多数だと思われます。
このように、乳幼児について親権者に争いがある場合、母親を親権者とすることが多いという現実があります。
3.親権者でない親との親子関係について
親権者に指定されなかった親も、子どもとの親子関係は、離婚後も続きます。
親子関係が続くことを前提に、離婚後も、面会交流の争いになったり、養育費の争いになったりすることがあります。
4.親権者指定後の事情の変更
離婚時に親権者と指定された者が、その後の事情の変化により、親権者としての適性を欠くようになった場合、親権者の変更が認められるケースもあります。
親権者の変更が認められるためには、親権者変更の必要性があることに重点をおき、主張立証をすることが必要です。
5.親権者と監護者の分離
なお、親権者とは別に監護者を指定することも可能で、実際、そのような主張をしてほしいと依頼を受けることもあります。
しかしながら、調停や裁判の場では、親権者と監護者を別々にすることを前提に話し合いが進むことは極めて稀です。