Answer
住宅ローンがいわゆるオーバーローンの場合、夫婦の自宅の処理については、以下の方法によることになります。
1 単独名義の住宅ローンの場合
① 夫婦のどちらか一方が自宅の取得を希望する場合
ア 住宅ローンの借主が取得する場合
変わらず住宅ローンをそのまま返済していけば大丈夫です。なお、夫婦の一方が住宅ローンの連帯保証人となっている場合、連帯保証人から外してもらう条件も、忘れずに金融機関と協議するべきです。
イ 住宅ローンの借主でない相手方が取得する場合
以下の㋐か㋑の方法によります。
㋐金融機関の同意を得て住宅ローンを引き継ぐ。
㋑他の金融機関で新たに住宅ローンを組み、既存の住宅ローンを一括弁済する。
② 自宅を売却する場合
自宅の売却と同時に、オーバーローン部分(本問では300万円)を含めて住宅ローンを一括弁済する必要があります。そうしないと、金融機関から自宅に設定した抵当権の抹消に同意をしてもらえないためです。自宅売却代金に、手元資金や親族からの借入れをプラスして、オーバーローン部分を含めた住宅ローンの一括弁済をしなければなりません。
③ 夫婦どちらも自宅取得を希望せず、また売却もできない場合
住宅ローンの借主が、従来どおりそのまま住宅ローンを支払っていくことになります。
2 住宅ローンがペアローンの場合
① 夫婦のどちらか一方が自宅の取得を希望する場合
上記1①イと同様、以下の㋐か㋑の方法によります。
㋐金融機関の同意を得て住宅ローンをすべて引き継ぐ。
㋑他の金融機関で新たに住宅ローンを組み、既存の住宅ローンを一括弁済する。
② 自宅を売却する場合
住宅ローンが単独名義の場合と同様、自宅の売却と同時に、オーバーローン部分(本問では300万円)を含めて住宅ローンを一括弁済する必要があります。そうしないと、金融機関から自宅に設定した抵当権の抹消に同意をしてもらえないためです。売却代金に、手元資金や親族からの借入れをプラスして、オーバーローン部分を含めた住宅ローンの一括弁済をしなければなりません。
③ 夫婦どちらも自宅取得を希望せず、売却もできない場合
住宅ローンのうち、自分の借り入れ分をそのまま支払う必要があります。
なお、ペアローンの場合、自宅の登記が夫婦共有名義となっているはずです。したがって、離婚後の住宅ローンの負担や自宅の使用方法や、住宅ローン完済後の自宅の処分(登記を含む)についても話し合っておくべきです。
Point
マンションでも一戸建てでも、自宅の購入に住宅ローンを使用した場合、金融機関が自宅に抵当権が設定します。そのため、離婚にあたって、自宅を処分するには、住宅ローンと抵当権の処理を考える必要があります。
単独名義の住宅ローンで、住宅ローンの借主が自宅を取得する場合(上記1①アの場合)は、住宅ローンを貸した金融機関にとって、何も変わるところはないので、特別の手続きは必要なく、従前どおり住宅ローンを支払っていけばよいだけです。
一方、単独名義の住宅ローンで、住宅ローンの借主でない相手方が自宅を引き取る場合(上記1①イの場合)や、ペアローンの場合(上記2①の場合)には、金融機関の同意を得て住宅ローンの残債務をすべて引き継ぐか、別の金融機関に新たに住宅ローンを借りて、既存の住宅ローンを完済する必要があります。いわゆる住宅ローンの借換えという方法です。
住宅ローン付きの自宅を売却しようとする場合、抵当権付きの不動産など通常は誰も買ってくれませんので、自宅に設定された抵当権を抹消してもらう必要があります。しかし、金融機関は、住宅ローンが一括して弁済されない限り、抵当権の抹消には応じません。したがって、オーバーローンの自宅を売却するには、自宅の売却金額と手元資金などを合わせて住宅ローンを完済しなければなりません(上記1②と2②の場合)。
住宅ローンの引継ぎや借換えもできず、売却もできない場合(上記1③と2③の場合)には、住宅ローンの支払いを続けていかなければなりません。そして、単独名義の住宅ローンの場合は、住宅ローンの借主が自由に自宅を使えばよいです(自宅として使用してもいいですし、賃貸に出すという方法も検討の余地はあります。)。しかし、ペアローンの場合には、自宅の登記が夫婦共有名義となっているはずですので、簡単にはいきません。離婚後の住宅ローンをどう負担するのか、住宅ローン返済中の自宅を誰が使用するのか、また、住宅ローン完済後に自宅をどう処分するのか、といった先々の問題まで話し合っておく必要があります。
なお、夫婦のどちらか一方がオーバーローンの自宅を取得し、引き続き住宅ローンを負担する場合、理論的には財産分与として2分の1ずつ負担すべきあるオーバーローン部分(本問では300万円)を一方だけが負担することになります。そのため、財産分与の話し合いでは、このオーバーローン部分の負担もどう清算するか話し合いをすべきです。もっとも、現実には、自宅を取得した側は、将来自宅を自由に売却して利益を得ることができるなどの理由から、オーバーローン部分は清算しない場合が多いといえます。