Answer
養育費や婚姻費用が当事者間の話し合いで決定できない場合、家庭裁判所の調停を利用することになります。家庭裁判所では、大半のケースで「標準的算定方式」という基準によって決定されます。裁判所からは、この「標準的算定方式」を簡易表にした算定表が発表されています。家庭裁判所の調停では、この算定表を基準に調停が進められます。
家庭裁判所の算定表については、参考までに以下にリンクを貼っておきます。
https://www.courts.go.jp/toukei_siryou/siryo/H30shihou_houkoku/index.html
Point
養育費・婚姻費用が任意の話し合いで決定できない場合、家庭裁判所の調停を申し立てなければなりません。これらの調停では、まずは算定表を基準に話し合いが進められます。すべてのケースで、算定表では評価されていない支出(例えば、私学の学費など)が全く考慮されないわけではありませんが、ほとんどのケースにおいて、算定表もしくは算定表のもととなった「標準的算定方式」が養育費・婚姻費用算定の基準とされます。なお「標準的算定方式」及びこれに基づく算定表は、令和元年12月に改訂されており、若干増額となりました。
算定表を見れば、およそ2万円刻みで目安となる金額を知ることができます。算定表は、縦軸が養育費・婚姻費用を支払う側(以下「義務者」といいます)の所得、横軸が支払いを受ける側(以下「権利者」といいます)の所得となり、それぞれが交差する場所の金額を見ることになります。
算定表は、義務者の所得に関して、上限があります(給与所得で2000万円まで、事業所得で1567万円まで)。そこで、以下、質問の家族構成をもとに、「標準的算定方式」による計算方法を説明します。
なお、おおよその目安を知ることができればよいという方は、算定表を見ていただければ結構で、以下の記事を読んでいただく必要はありません。計算をして具体的な金額を知りたいという方は、以下の記事を読み進めてください。難しい計算はしたくないが具体的な金額を知りたいという方は、当事務所にお問い合わせください。
(家族構成)
義務者:夫・給与所得800万円、
権利者:妻・給与所得200万円
別居しており、子ども2人(16歳、10歳)は妻が監護養育
(1)婚姻費用について
① 基礎収入
まず、権利者・義務者とも、基礎収入を計算します。基礎収入は、総収入に、以下の※1に記載した総務省統計局発表の「統計資料に基づいて算出された標準的な割合」を乗じます。
ここにいう総収入とは、給与所得者は源泉徴収票記載の支払金額(社会保険料など一切が控除される前のいわゆる額面額)、事業所得者では、概ね確定申告書の「課税される所得金額」に、実際に支出されていない費用(例えば,基礎控除,青色申告控除,支払がされていない専従者給与など)を加算した金額となります。図式化しますと、
基礎収入=総収入×「統計資料に基づいて算出された標準的な割合」(※1)です。
具体例では、それぞれ
夫:800万円×40%=320万円
妻:200万円×43%=86万円
となります。
「統計資料に基づいて算出された標準的な割合(※1)」
給与所得者の場合 |
事業所得者の場合 |
||
給与収入(万円) |
% |
事業収入(万円) |
% |
0~75 |
54 |
0~66 |
61 |
~100 |
50 |
~82 |
60 |
~125 |
46 |
~98 |
59 |
~175 |
44 |
~256 |
58 |
~275 |
43 |
~349 |
57 |
~525 |
42 |
~392 |
56 |
~725 |
41 |
~496 |
55 |
~1325 |
40 |
~563 |
54 |
~1475 |
39 |
~784 |
53 |
~2000 |
38 |
~942 |
52 |
|
|
~1046 |
51 |
|
|
~1179 |
50 |
|
|
~1482 |
49 |
|
|
~1567 |
48 |
② 生活費指数
基礎収入が算出できましたら、次に、権利者側・義務者側、双方の世帯の生活費指数を求めます。
生活費指数は、成人が100、これに対して、0~14歳の子は62、15歳以上の子は85です。
義務者側=夫:100
権利者側=妻:100+子16歳:85+子10歳:62=247
③ 権利者側に割り振る婚姻費用の算出
②で算出された生活費指数を使って、家族全体の婚姻費用(=義務者の基礎収入+権利者の基礎収入)のうち、権利者側に割り振る金額を求めます。計算式は以下のとおりです。
権利者側に割り振られる婚姻費用
=(義務者の基礎収入+権利者の基礎収入)
×【権利者側の合計指数÷(権利者側の合計指数+義務者側の合計指数)】
具体例では、
(夫320万円+妻86万円)×【247÷(247+100)】
=406万円×【247÷347】
≒289万円
④ 義務者の分担額の算出
最後に③で求められた金額について、義務者の分担額を算出します。
義務者の分担額
=権利者側に割り振られる婚姻費用-権利者の基礎収入
具体例では、
289万円-妻の基礎収入86万円=203万円
以上は年額ですので、これを12月で割ります。そうしますと、婚姻費用について、義務者が分担すべきひと月の金額を求めることができます。
203万円÷12月≒16万9000円
具体例では、夫は、妻にひと月16万9000円の婚姻費用を支払う必要があります。
(2)養育費について
① 基礎収入
まず、婚姻費用の場合と同様、権利者・義務者それぞれの基礎収入を求めます。
基礎収入=総収入×「統計資料に基づいて算出された標準的な割合(※1)」
具体例では、
夫:800万円×40%=320万円
妻:200万円×43%=86万円
② 子の生活費指数
次は、子どもの生活費指数を求めます。婚姻費用と同様の指数(0~14歳の子は62、15歳以上の子は85)を使用します。一方、婚姻費用と異なり、離婚後は夫婦間に扶養義務はなく、子どもに対してのみ扶養義務を負うことになりますので、子どもの生活費指数だけ算出します。
子16歳:85+子10歳:62=147
③ 子の生活費の算出
②で求めた子の生活費指数をもとに、具体的な子の生活費を以下の計算式で算出します。
子の生活費=義務者の基礎収入×【子の指数÷(義務者の指数+子の指数)】
具体例では、
夫:320万円×【子:147÷(夫:100+子:147)】
=320万円×147/247
≒190万4000円
④ 義務者の分担額の算出
③で算出された子の生活費について、義務者と権利者それぞれの基礎収入で按分した金額が義務者の分担額となります。
義務者の分担額=子の生活費×【義務者の基礎収入÷(義務者の基礎収入+権利者の基礎収入)】
=190万4000円×【320万円÷(320万円+86万)】
≒150万円
以上は年額ですので、これを12月で割ります。そうしますと、養育費について、義務者が分担すべきひと月の金額を求めることができます。
150万円÷12月=12万5000円
具体例では、離婚後の夫(父)は、離婚後子どもを監護養育する母に対し、ひと月12万5000円の養育費を支払う必要があります。
算定表のもととなった「標準的算定方式」の計算方法は以上のとおりです。ご覧いただいたとおり、計算方法は若干複雑です。難しい計算をしたくない方、算定表では算定できない場合は、当事務所にご相談ください。