Answer
離婚後に親権者となる母親が、「子の氏の変更申立て」という手続きをしない限り、子どもの姓が変わることはありませんので、離婚前から名乗っていた夫の姓をそのまま名乗ることになります。
Point
姓は、法律上正式には「氏」といいます。そこで、以下、姓ではなく「氏」ということにします。
夫婦は、婚姻時に、どちらかの氏を選択して同じ氏を名乗ることになっています(民法750条)。ご質問では、婚姻の際、妻が夫の戸籍に入籍し夫の氏を名乗っていたことになります。この夫婦が離婚した場合、妻は、夫の戸籍から必ず外れ、婚姻前の戸籍に戻るか、妻自身を筆頭者とした新たな戸籍を作るか、を選択します。そして新たな戸籍を作ると同時に、婚姻中の氏(婚氏)を引き続き使用する手続き(この手続きを「婚氏続称」といいます)をしない限り、妻は旧姓(旧氏)に復します(これを「復氏」といいます)。つまり、例えば、浜松花子が、静岡一郎と結婚し、静岡花子となった場合、その後離婚し、婚氏である「静岡」を名乗るための婚氏続称手続をしない限り、離婚後は浜松花子に復するということです。
このように、離婚の場合、妻は必ず夫の戸籍から外れることになりますが、妻を親権者と決めて離婚しても、子どもは、妻と一緒に妻の戸籍に移るわけではなく、夫の戸籍に入ったままです。そのため、離婚しても、子どもの戸籍は変わらないため、子どもは離婚後もそのまま夫の氏を名乗ります。つまり、離婚によっても子ども氏は変わらないのが原則となります。
もっとも、復氏した親権者の母親が、家庭裁判所に対して子の氏の変更許可申立てをし、これが許可された場合には、この原則は覆ります。子どもは、父親の戸籍から母親の戸籍に入籍し、以後は母親と同じ氏を名乗ることになります。そして、この子の氏の変更申立ては、離婚後の親権者が単独で行うことができてしまいます。したがって、離婚後の親権者を母親と定めた場合、子どもに夫の氏を名乗らせるかどうかは、親権者である母親の決定次第となってしまいます。
これを防ぐためには、少なくとも夫婦間で離婚後も子どもは夫の氏を名乗る旨の合意くらいはしておかなければなりません。そして、離婚合意書などによって書面化もしておくべきです。もっとも、夫婦間で合意しただけでは、親権者となった母が、離婚後に必要を感じて子の氏の変更申立てをした場合には、子の氏の変更が認められてしまう可能性が高いです。そのため、離婚後も子どもに夫の氏を名乗らせるためには、なぜ離婚後も夫の姓を名乗らせたいのか、その理由を夫婦間で予めきちんと話し合って共有し、妻の理解を得ることが重要です。
それでも、離婚後の事情の変更によって、親権者となった母親から子の氏の変更申立てがなされない保証はありません。確定的に、離婚後も、子どもに夫の氏を名乗らせるには、離婚後の子どもの親権を夫が取得するよりほかありません。この時に、親権者を争うことを前提とすると、どうしても親権を巡った争いが苛烈化する可能性が高まります。そこで、離婚後の親権者は父親としながら、普段子どもと一緒に生活を養育していく監護者を母親と、分けて定める方法も考えられます。もっとも、裁判所は親権者と監護権者を分けることはしないのが通常で、親権者と監護権者を分けるには、現実的には、当事者の話し合いによるしか方法がないといえます。いずれにしても、離婚後も確定的に子どもに夫の氏を名乗らせるには、離婚の協議において、妻の理解を得ることが最重要であることに疑いの余地はありません。